「あっ………」
一条香織はサッカーを終え、1つに縛った髪をほどいた。
その途端、ウェーブかかった彼女の髪は風に乗りふわりと広がって肩に落ちる。
一つに纏めていたときよりも、おろしたことで彼女のポワンとした印象の中にほんの少しの女性らしい妖しさが見える。
大也はただ、その姿を呆然と見ていた。
思わず声を出していたことさえも気づかないほどに。
「どうした? 正木?」
優奈が大也の顔の前で手をぶんぶんと振る。
だが、大也がそれに反応することはない。
優奈と深青はお互いに顔を見合わせ首を傾げる。
「………俺………、見覚えあるかも………」
2人が疑問に思っているところに大也の言葉は突然で、とても弱々しかった。
何が大也の口から発せられたのか2人が理解するのには少し時間がかかった。
だが、それが理解されると2人は一斉に大也の方を見た。
「え~~~~~!」
2人の急な大声に大也は思わず耳を押さえる。
もちろん、それは周りにいた生徒たちも同じで3人は注目の的になった。
「だって、さっき見覚えないって………」
「どういうこと? はっきり言いなさいよ」
深青は戸惑いの表情を見せ、一方、優奈は大也の胸ぐらを掴み問い詰める。
優奈に胸ぐらを掴まれ、息苦しそうに大也は声を出す。
大也の中では女の子に攻撃に攻められ男としてとても情けないのと周囲の視線が気になった。
先ほどの2人の大声と今のなんとも言えない大也の状況は周囲の人にしては何事かと興味を注がれる光景だろう。


