「おとといはごめんな。急に引き止めて。よく考えたら夜遅くまで、家の人何も言わなかったか?」


朝、自分の席に着き、鞄から教科書を机に入れていた深青は目の前に申し訳なさそうに立つ影に顔を上げる。


「ああ、おはよう。大丈夫だよ。ウチは昔から職業柄、遅くなったりするのはたびたびあったから。どっちかというと優奈のほうが大変かも………。両親共々、心配性だし、優奈、1人っ子だから………」


「マジ? おとといさ、お袋からすごい絞られてさ。『女の子を夜遅くまで引き止めてるなんて、ご家族が心配なさること考えなかったの!』てさ」


「あはは。学校から全く帰ってこなかったら、さすがにそう思うかもしれないけど、1度、帰ってるからね………」


「そっか、それならよかった。一応、夏川にも聞いとくか」


大也はしぶしぶといった感じで優奈の席を見る。


だが、そこにいるはずの人物はいない。


確かに、隣の席の優奈が一言も口を挟んでこないこと自体ありえない。


だが、いないのなら納得もいくというものだ。


「あれ? 優奈いないの? もうすぐ授業始まるのに………」


「そういえば、みゆきと廊下で話してたような………」


大也は少し前の記憶を呼び起こす。


「みゆきちゃんと? ………ふ~ん。それより、正木くん。あれから変わったことなかった? 初が何も知らせてこなかったからないと思うけど………」


深青は教室の窓の外の木に止まっている初を確認し、大也に聞く。