「いや、まじで、まじで」



永見は慌てたように顔の目の前で手をヒラヒラさせた。


「高野夏樹っていうやつなんだけど、今日の朝告ったみたいでさ、そんで和泉さんがOKしたんだとー」



「はぁ?誰それ。女みたいな名前だな」



俺がそう言うと永見は、
それ千鶴が言うか、とケラケラ笑った。



「ていうか、高野くんのこと知らないなんて、ビックリ」



「いや、聞いたことないし」




するとまた永見は大きな口を開けて笑った。


何がそんなにおもしろいんだか…。


「千鶴に覚えられてないなんて、高野くんかわいそー」



目尻に浮かんだ涙を拭って永見は話す。



「去年の秋にあったクラスマッチ覚えてる?
あれでテニスの個人戦の決勝でお前がやった相手だよ!
高野くんはテニス部なのに、お前があんまり強いもんだから熱戦になってめっちゃ盛り上がったんだけどなー」



クラスマッチ〜?



あっ、あれのことか!




クラスマッチなんて興味なかったんだけど
担任が、おれが優勝したら焼き肉おごりって言ったから
まじで頑張ったんだよな。



まぁ、決勝で負けたんだけど。




で、そのときの相手が高野くん?



そいつが結弦に告白したのか?




あー…高野くんが思い出せねぇ。



どんなやつだったっけ?



あん時は本当に必死で相手の顔なんか見る暇なかったんだよなー。



「あー、ダメだ。わからん」


「まっじかよ!お前あの後、高野くんにテニス部入らないか、って話しかけられてたじゃん!」




うーん、わかんね!



まぁ…いっか。



家に帰ったら結弦が話してくれるだろう。



その時ゆっくり思い出せばいい。




おれはそう安心して家路についた。