授業後。
 といってもお昼の少し前。図書室に本を返して、保健室に行く。

 パソコンとにらめっこして、私が入ってきたことに気づかないのは養護教諭の相川零。

【相川先生?】

 肩を叩き、手話で聞く。

【おー、美雨。どうした?何か用事?】
【用事がないと来たらいけない?】
【そういうわけじゃないけど。コーヒー飲むか?】
【うん】


 私にミルクが入ったコーヒーを渡すと、相川先生は再びパソコンに向かった。


 誰も来ない放課後の保健室。消毒液のにおいが鼻に来る。そんな保健室がイヤだと言う人も多いけど、私は好き。



「相川先生ー」


 相川先生が振り向くと裕くんがいることを教えてくれる。


「お、邦枝か。どうした?」
「用がなかったら来たらいけない?」
「そうは言ってないだろ。コーヒー飲むか?」
「うん。俺の弟が入ったんだよ」
「裕樹のか?」
「ああ」
【直樹。こっち来い】


 裕くんが手話で呼ぶと直くんが来た。