「ただいまー」

 間もなく、新学期が始まろうとしている4月。どしゃ降りの雨の中、買物に行っていたお母さん達が帰って来た。

【お帰り、お兄ちゃん、お母さん】
「ただいま。美雨(みう)」

 私との会話に声はない。なぜなら、私が耳が聞こえないから。
 先天性の聴覚障がいが私にはある。

「美穂ー。早く入ってよ」
「あ、ごめん。美央」


 後ろからお母さんのお姉さん、美央さん、従兄弟の裕樹と直樹が入ってくる。
高野家とお母さんのお姉さんの家族、邦枝家は同じ家。結婚しても一緒に暮らしたいというお母さん達の願いから、二世帯住宅をしている。

【直樹。お風呂行ってらっしゃい】

 美央さんが手話で直くんに伝える。
 美央さんの次男、直樹にも聴覚に障がいがあるけれど、直樹は、大きな声なら人の声が聴こえるけれど、美雨は全く聴こえない。

「裕樹。直樹と入ってきて」
「わかった」

直くんと裕くんが邦枝家のお風呂へと向かった。


 裕くんと直くんがお風呂に入ってると従姉の美樹ちゃんが帰ってきた。

「おかあさーん、タオル取ってー」
「はい。まだ酷いわね」
「うん。傘、役に立たないよ」
「お風呂沸いてるから入っておいで」
「うん」
【美樹ちゃん、一緒に入っていい?】
【うん。いいよ】



「あー、気持ち良かった」
「ご飯だよ。美樹、美雨ちゃん」
「【いただきます】」




 高野美雨。今春から中学二年生。特別支援学校じゃなくて、普通の学校に通っている。

 お父さんが中学の教員ってこともあって、私は普通の学校に通うことが出来ている。