「マリア様、私にはもう、どうしてよいか分からないのです。このままでは妻も二人の娘も飢え死にしてしまいます…。もう私は商売を辞めた方が良いのでしょうか……」

あぁマリア様マリア様、と繰り返し老人はマリア像に祈り続ける。

「あぁマリア様、この者を導く術を架け橋となる私にお教え下さい」

シスターは目を瞑ったまま顔を上げた。

瞼の奥の瞳は天を見つめる。

「彼女は神に選ばれしシスターなのです」

「うわっ!?」

突然左隣から、しわがれた女の声が聞こえ、俺とエレナは声を上げた。

驚いてその場から一歩離れると、俺とエレナの間に黒服で身を包んだ老婆が立っていた。

歴史を感じる深いシワ、かつてはハリがあったであろう垂れた頬にはシミが目立っていた。

細く綺麗な白髪は後頭部で団子にまとめられ、年をとっても色褪せない青い瞳。

若ければエレナと同じくらいの背だったのかもしれないが、今は背骨が曲がりエレナより小さい。

「先客が居るようなので私は帰ります」

「あのシスター、マリアの声が聞こえるの?」

踵を返した老婆にエレナが声をかけた。