厚い扉は静かに開き、暖かい空気が俺達を包み込んだ。

「ノックも無しに入って来るなんて…君にはモラルが無いようだね」

「お前はっ!?」

汚い物を見る様な目で俺を見下す男は、俺をクビにした石川ではなかった。

「久しぶりですね、日影先っ輩」

石川が以前座っていた革のイスには、ここで働いていた時の部下であった寿清太(コトブキセイタ)が座っていた。

人懐っこい笑顔は憎らしい笑顔にしか見えない。

「石川はどうした?」

「あぁ、あのジジイね。俺に社長の地位をくれた後に、辞めていったよ」

ニッコリと笑う。

「どうして、ろくに仕事も出来ないお前に社長の座をあげるんだ?」

あの時、俺じゃなくて寿をクビにするべきだったんだ。

なかなか仕事を覚えず要領が悪い寿は、有名大学の卒業歴があるだけの使えない男だった。

「さぁね。でも俺が人の上に立つべき人間だって判ったんじゃない?…それより隣の美人は新しい彼女?」

寿はエレナを舐める様に上から下まで見つめ、笑顔のまま首を傾げる。