そんなに満員電車が嫌いなら、通勤ラッシュ時間に乗らなきゃいいのに…。

「違うわよっ!…もう、いい。早く行くわよ」

また俺の心を読んでエレナが怒鳴る。

…俺、何かしたかな?

イライラしてる女は理不尽なので、放おっておくのが一番だと思い、黙って歩幅の大きくなったエレナの後ろを歩いた。

歩き慣れた懐かしい道をエレナの背中を見ながら歩いて、なんとなく邪の椅子が何処にあるか予想がついた。

電車を降りた時点で頭にその予想はあったが、“だったりして”と軽い考えだった。

だが、エレナは確実に“あそこ”に向かって歩いていた。

「やっぱり…」

周りより背の高いビルを見上げ、ため息混じりに呟く。

「やっぱりって?」

機嫌が直ったのか、いつもの口調でエレナはビルから俺に視線を移した。

「ん?…あぁ、ここ俺が働いてた会社」

「知ってる」

エレナは一言呟くと、俺の手をとって自動ドアを通過した。

なんだ…知ってたんじゃん。