運の気が消え再びエレナが感じ取ったのは“邪の椅子”の気だった。

「キャンセルがあって良かったわ」

俺はフランスに数時間しか滞在していない身として、キャンセルは喜ばしい事では無かった。

エレナにとっては良い事なのかもしれないが、俺はキャンセルなんて無くて良かった。

やっぱり俺は不運なんだな。

「フランスに居るより移動時間と金が掛かっただけだよ」

はぁ…と少し大きめの溜め息をつく。

半日以上の時間を掛けて日本に帰って来た俺達は一日休憩を挟んで、椅子探しを再開した。

「久々だな」

エレナの案内でスーツを着た俺達が歩いているのは、俺にとって歩き慣れた道だった。

この道で、俺は仕事に行く時にスーツで歩きながら駅に向かうのが常だった。

会社をクビになってから、この道を歩く事もこのスーツを着る事も無かった。

上り電車にエレナと乗り込む。

あぁ…あの時の日常と同じだ。