それで……。

それで、俺は……死体になった寿に更なる怒りを覚え、気が付いたら邪の椅子を手にしていた。

何度も何度も死体を椅子で殴り、原形をとどめなくなっても殴り続けた。

エレナが止めてくれなければ、俺は未だに殴り続けていたかもしれない。

後ろからエレナに止められ、俺は背凭れだけになった椅子を血溜まりに捨てた。

びちゃっと血が雫になり放物線を描いて血溜まりに溶けた。

『帰ろう?』

エレナが後ろから俺を強く抱きしめ、背中に優しく呟いた。

「それから……エレナの力で返り血を浴びた俺は無事に帰ってこれたのか……」

少しだけ思い出せたが、二体の死体の事や、いつ寝たのか、エレナはいつから居ないのかは思い出せなかった。

もう何も思い出せそうにないので、諦めて起きることにした。

リビングに下りるとコーヒーを飲んでいると思っていたエレナの姿は無かった。

「出掛けたのか……?」

家の中は死んだ様に静まり返っていた。

キッチンを覗くとエレナのマグカップが水切りカゴに置かれていた。