唇が触れるだけの軽いキス。

「……なに?」

優しい声と微笑みに、胸がギュウッと締め付けられる。

「あの椅子と契約するのに誰を犠牲にしたの?」

声を発するギリギリまで“本当に私が好きなの?”という質問と悩んだが、すぐに頭から削除した。

竜治は、あぁ、と呟いて得意げに笑った。

「俺はまだ誰も殺しちゃいないよ」

ムカつくドヤ顔は無視して、竜治の次の言葉を待った。

「これを殺したんだ」

そう言って私の目の前に腕を見せて来た。

「腕時計?」

「そう。針が止まってるだろ?俺はこの腕時計を殺したんだ。まぁ……壊したって言ったほうが腕時計には合ってるかな」

竜治は答え終わったのか、私の首筋に舌を這わせた。

「ゃぁッ……」

なるほど。

それで犠牲者を出さずに済んだのか。