見られていたとしたら、一緒に居る時点で何をしてくるか分らないが、邪の椅子を所有している限り、寿に大きな刺激を与える訳にはいかない。

邪の椅子には無限の“悪い”可能性がある。

今は必要以上の行動は控えよう。

「じゃぁ、もう行くね。竜治……愛してる」

和華菜は瞳を潤ませながらそう告げると、俺の言葉を待たずに店を出て行った。

長い間、手を握り合っていた気がする。

手には助けを求める和華菜の体温が、じんわりと……だがはっきりと残っている。

俺はその手を震える程強く握りしめた。

「和華菜……」

店の扉を見つめる俺は、無意識に唇が動いていた。