私は支度を済ませ墓地まで行き、
花束と線香をそえた。



瞼を閉じると
切ないような、懐かしいような気持ちが絡み合って、身体が少し震えた。





沢山、思いでは絶えないのに
また会える気がしてならないのに


瞼を開けると、墓石しかない。


その寂しさ溢れる現実にうちひしがれる。


どうやっても、
逃げられないのね。



甘いなぁ…


自分の子供な考えに苦笑すると、誰かが近づいてくる音がして、振り向く。



「香住さん、きてくれたのね」


私の名をそう呼ぶ声の主は、あの日から大分痩せ、若さの失ったその人だった。



「えぇ…。
忘れろ言うほうが酷です。
ずっと…側にいるって決めましたから」


「そう…
花まで…ありがとう。
愛弓も喜んでるわ…
私も香住さんにあえて、こうして顔が見れて嬉しいもの」


少し皺の増えた小柄で品のある顔が緩む。

その表情は昔と変わらない。


「私も…お会いできて嬉しいです」


そう返すと、その人はさらに笑みを深め、線香をあげ、墓石の前で手を合わせる。


「折角だし、家にあがってお茶でもどう?」

墓石から視線を離さないまま、訪ねられる。


少し迷ったあと、

「ご迷惑でなければ、
御言葉にあまえて…」

と返答した。


なんだか、
今日は少しだけ
一人にはなりたくなかった。