「…本気?」

抱きしめられたまま、
背中に居る愛弓に尋ねる。

「本気だよ。
言い出したのはあん時の香住だよ?」

クスッと笑う愛弓の吐息が、耳にかかってくすぐったい。


「そう…だけど…」

「本気じゃなかったとか?」

「本気だよっ!」

バッと思わず愛弓の方に顔を向ける。

「じゃあどうすんの」

切れ長で長いまつげ。
鼻筋は通っていて薄くて形の良い唇。

慣れ親しんだ顔なのに
何故か目を奪われて、
逸らせない。


「な…んで今…」


びしょびしょなのに…


「どっちみち今日言おうと思ってたんだよ。
俺らもう3年だし。
進路で忙しくなって言えなくなるのもやだし」


まさか水ぶっかけられて
しまいには香住が川に落ちる何て思いもしなかったけどね、

と楽しそうに言う愛弓の長い指が私の髪を弄ぶ。

その仕草一つ一つにドキドキしてしまい、
言葉が詰まってしまう。


「……かーすーみ」


「………ぃたい」


「ん?」

ごめん、聞こえない。と私に耳を寄せる愛弓。

さらに私の鼓動を早くさせる。


「付き合いたい…
愛弓の彼女になりたい、です」


紅潮した頬を隠すように前に向き直り、そう蚊の鳴くような声で言うと、


ぎゅっとより一層抱きしめられたかと思うと
耳許で


「喜んで」


と囁かれた。










それが、
私達のスタートだった。