「何で、ここに?」
木々がさわさわと囁きあうその小道で、私達は久しぶりに向き合った。私の質問には答えず、リキはそっと私の髪に触れて、
「ウィッグ、かぶってないんだな」
「もう、やめたの。些細なことにこだわるのを」
「そっか」
リキはふっと微笑んだ。いつか見たような冷たい目じゃなく、おどけたような目でもなく、とても優しい瞳。
そのシルバーブルーの瞳に、私の心はあっさりと捕らえられる。
「英輝に教えてもらった。カノンの家」
「わざわざ私に会いに・・・?」
「伝えたいことがあったから」
リキが、私に?
目を見張った私に、リキはにこっと笑いかける。その効果は尋常ではなく、すぐに私の顔は真っ赤に染まった。
「柄じゃねぇのはわかってる。けど、初めて会ったときから気になって仕方ねぇ」
そんなことを、揺らがない瞳で見つめられて言われたら、頭がおかしくなってしまいそうで、心臓が壊れてしまいそうで、私は大きく肩で息をするしかない。
「カノンは気分が悪いかもしれねぇけど、今まで女なんて向こうから寄ってきたし、真剣になんて考えてなかった。俺から追うことなんてなかった。だけどカノンに会って、初めて気になって仕方ないって気持ちになったんだ」
そんなふうに飾らない言葉を送ってくれることが嬉しくて、不覚にも涙が出そうになった。

