ヴァムピーラ




 カメラを構えて、私は以前のように小道を歩いていた。
 以前は、家から出るときは必ずかぶっていたウィッグも、今はつけていない。風が、私の髪で遊んでいくのが、心地良い。
 今まで見ていた景色が、随分違って見えるようにもなった。時折見える光達。それに気づかない振りをするのではなく、そっと手を伸ばしてみた。

 今なら、最高の一瞬を撮れるような、そんな気がした。


 未だにリキには会えていない。撮影が長引いているらしく、彼がいつ帰ってくるか私には知る術がなかった。
 だから私は、カメラを片手に毎日自然と向き合ってみた。心持が変われば、見えるものも変わる。
 見方を変えた私の世界は、随分美しく、色鮮やかなものとなった。

 小鳥のさえずりに耳を傾け、風をこの身で感じ、目に映る全てのものに微笑みかける。
 そうやって歩いていた私は、ふと足を止めた。誰かが来る。

「?」

 最初は、父か母かと思った。私を呼びに来たのかと。でも振り返った瞬間、心臓を掴まれたように脈打った。
 私が歩いてきた道を、銀色の髪を持つ男が歩いてきた。振り返った私に、そっと微笑みかけた。

「よお」
「・・・リキ・・・」

 久しぶりに見るその姿に、言葉が出てこない。最後に見たときには、随分体調が悪そうだったけれど、今は随分元気そうだった。