永遠を繋いで

マンションに着く頃にはもう辺りは薄暗くなっていて、結構な時間が経っていたのだと気付く。鍵を探そうと鞄をあさりながら歩いていると、扉の所に人影があることに気付いた。

扉にもたれかかるようにしゃがみ込んだ人影が、あたしの足音に気付いてゆっくりと顔を上げる。
その人物に驚いて、名前を呼んだのと同時だろうか。立ち上がったその人物は、近寄るやいなやあたしを自分の腕の中に閉じ込めた。

ひやりと冷たい体温が、あたしの体温を奪うような感覚。どれくらい外で待っていたのか、いつもよりも冷えた手が背中を撫でた。

何も言わずその体勢を崩そうとしないので、ひとまず家に入ろうと促すとしぶしぶ体から離れる。しかし部屋へ入るやいなやまた同じ体勢になり少しだけ苦笑する。

「ごめん先輩、いきなり来て」

「ううん。あたしもごめんね、電話するって言ったのに遅くなっちゃった。寒かったでしょ?手、冷たい」

いきなりどうしたの、とは訊かない。茜くんが急にあたしの所へ来るのは、珍しいことではなかった。連絡すると言ってもそれより早くあたしを迎えに来るのは今や日常茶飯事だ。
しかし今日は様子がおかしい。
先程より幾分か温かくなった手を離すと、茜くんが口を開いた。

「…ちょっとだけ、不安になったんです」

「何に?」

我ながら白々しいと感じた。
茜くんが何に対してのことを言っているのか、頭は瞬時に理解した。きっと、茜くんはあたしが誰に会っていたのか分かっているだろうから。
分かってるくせに、そう呟いた彼の言葉が何よりの証拠。

綺麗な顔は微かにだけれど歪められていて。そんな顔をさせたくなかったからこそ隠していたのに。それは間違いだったのかもしれないな、なんて頭を過ぎる。

いっそ全て話してしまおうか。
そう思ったのを見透かしたように、茜くんの声が静かな部屋に響いた。

「教えてよ。先輩、何してきたの」

逃げることを許さないと言わんばかりに、その鋭い目に捕らえられてしまって。
期待と不安が入り混じった瞳が、あたしを離してくれない。

そんな顔しなくたって、逃げないから。あたしね、君としっかり向き合おうって決心だけはちゃんとしてきたから。
知りたいなら全部全部、教える。伝えるから。
君は受け止めてくれる?