どれくらい時間が経ったのだろう、物凄く長く感じるだけでさほど経っていないのかもしれない。沈黙が辛いと思うのに、頭では目の前にある顔はやはり整っていて綺麗だと場違いなことを考える。
「俺にすれば」
いつもより幾分か低い声が耳に纏わりつく。
何を、言っているのだろうか。否、そんなのは愚問だ。意味は分かる。分からないのは何故そんなことをあたしに言っているのか、ということだ。
黙ったままでいると、整った口が再び言葉を吐き出した。
「俺に、しとけよ」
「何言ってるの」
「お詫びしろって言ったじゃん。だから、幸せを約束してやる」
何ともクサい台詞である。
しかし冗談を言っている雰囲気も、それを笑って流すような雰囲気でもない。あたしはこんな、男の顔をした涼太を、知らない。
「どうしてそんなこと言うの」
「好きだからだよ、真咲が」
内心焦っているのに、あたしの口から発せられる声色は自分でも驚くほど冷静だ。客観的に聞いていれば涼太の方がぎこちないだろう。
今まで何度か聞いていた『好き』とは、重みが違った。今言った好きは、あたしが涼太に抱くものとは別のものだ。
何で、どうして、そんな言葉しか浮かんでこなくて、握った手に汗が滲むのを感じる。
「いつか茜じゃなくて俺の方が好きだって思える可能性があるなら、俺を選んで?後悔させないから」
「…あたしは、」
「なぁ、頼むよ」
縋るように、あたしの手を控え目に掴んだ。
この手を離さなければいけない。頭では理解するのに、涼太の顔を見るとそれが躊躇われる。彼自身を受け止められないなら、中途半端に受け入れてはいけない。
いくら考えたって、あたしにとっての彼は親友なのだ。その関係を崩したくない。しかし、何と伝えればいいのか、上手く言葉が浮かんでこない。
この子供体温はあたしに安心を与える手ではない。触れてほしいと思うのは、いつだってあたしより体温の低い大きな手だ。
この手を振り払うのも受け入れるのも簡単なことだ。しかしどちらの行動を選んでも、きっと何かが崩れてしまう。
あたしはずるくて欲張りだから、どちらもしない。好きの意味が違っていても、どちらも同じように大事だから。
けれど違うのは、別の人を選んで幸せになってほしいというあたしの勝手な願い。そんな願いが届けばいい。
泣き出しそうな顔をする涼太に、あたしはただ曖昧な笑顔を返すだけだった。
「俺にすれば」
いつもより幾分か低い声が耳に纏わりつく。
何を、言っているのだろうか。否、そんなのは愚問だ。意味は分かる。分からないのは何故そんなことをあたしに言っているのか、ということだ。
黙ったままでいると、整った口が再び言葉を吐き出した。
「俺に、しとけよ」
「何言ってるの」
「お詫びしろって言ったじゃん。だから、幸せを約束してやる」
何ともクサい台詞である。
しかし冗談を言っている雰囲気も、それを笑って流すような雰囲気でもない。あたしはこんな、男の顔をした涼太を、知らない。
「どうしてそんなこと言うの」
「好きだからだよ、真咲が」
内心焦っているのに、あたしの口から発せられる声色は自分でも驚くほど冷静だ。客観的に聞いていれば涼太の方がぎこちないだろう。
今まで何度か聞いていた『好き』とは、重みが違った。今言った好きは、あたしが涼太に抱くものとは別のものだ。
何で、どうして、そんな言葉しか浮かんでこなくて、握った手に汗が滲むのを感じる。
「いつか茜じゃなくて俺の方が好きだって思える可能性があるなら、俺を選んで?後悔させないから」
「…あたしは、」
「なぁ、頼むよ」
縋るように、あたしの手を控え目に掴んだ。
この手を離さなければいけない。頭では理解するのに、涼太の顔を見るとそれが躊躇われる。彼自身を受け止められないなら、中途半端に受け入れてはいけない。
いくら考えたって、あたしにとっての彼は親友なのだ。その関係を崩したくない。しかし、何と伝えればいいのか、上手く言葉が浮かんでこない。
この子供体温はあたしに安心を与える手ではない。触れてほしいと思うのは、いつだってあたしより体温の低い大きな手だ。
この手を振り払うのも受け入れるのも簡単なことだ。しかしどちらの行動を選んでも、きっと何かが崩れてしまう。
あたしはずるくて欲張りだから、どちらもしない。好きの意味が違っていても、どちらも同じように大事だから。
けれど違うのは、別の人を選んで幸せになってほしいというあたしの勝手な願い。そんな願いが届けばいい。
泣き出しそうな顔をする涼太に、あたしはただ曖昧な笑顔を返すだけだった。
