永遠を繋いで

少しだけ寄り道をして、また手を繋いで、家で他愛もない話をして。それだけでも十分だったはずなのに、少し触れる度に茜くんがいつもよりも嬉しそうに笑うからか、あたしまで嬉しくなってしまって。控え目に抱き締めてもいいですか、なんて目線を合わせてくるものだから、気恥ずかしいけれど首を縦に振っていた。

ぎゅっと大きな体に包まれて、茜くんの匂いでいっぱいになる。あの日以来に全身に感じた低い体温は、ひどくあたしを安心させた。込み上げる感情は、愛しさ。
あたしもその背中に腕をまわせば、すり寄るように肩口に顔を埋められた。傷むことを知らない綺麗な黒髪が頬を擽る。

ふと、気になっていたことを口にしてみる。
ねぇ、と呼べば体勢はそのままに声だけが返ってきた。

「こうしてるの、久しぶりだね」

「そっすね」

「…今日まで何でしなかったの?」

許可なんてとったこと、今までなかったのに。そう言えば、ぴたりと動きが止まった。気になって顔を見ようと距離をとるも、許さんとばかりに再び腕の中におさめられた。

「嫌いになるって言ったから、丁度良い距離でいなきゃって思って」

「え、」

「先輩が嫌ならしないようにって、」

どうやらあたしの言葉を気にしていたらしい。
確かにそうは言ったけれど、これくらいで嫌いになるわけもないのに、と思う。普通の先輩と後輩にこんなスキンシップはないとは思うが、あたしは別に嫌と感じたことはない。勿論相手にもよるのだろうけれど。

「俺こんなんで、嫌いになりません?」

あまりにも不安気な声で言うものだから、胸がきゅっとする感覚があたしを襲う。苦しいけれど嫌な苦しさではなくて。
この感覚はひどく懐かしい気がする。ただ違うのは、以前よりももっと溢れてくる何か。

「嫌いになんてなんないよ」

背中を撫でてやると満足そうに笑うのに気付いた。じゃあ、と続いた言葉は、先程とはうって変わって悪戯な声色だった。

「寂しかった?」

「…いきなり距離感じたから、ちょっとだけ、」

寂しかったよ、言えば腕の力が少しだけ強くなった。
恥ずかしくなって今度はあたしが茜くんの肩口に顔を埋めるようにすり寄った。喉でくつくつと笑うのが近くに聞こえる。

「本当、可愛いっすね」

募る羞恥心の他に胸を占めるこの気持ちを隠して、今はこの少しだけ低い心地良い体温を堪能しようと思う。