永遠を繋いで

「お騒がせしましたー」

HRが終わりうって変わって仲良く言った二人に安堵する。涼太も随分心配していたようで、嬉しそうに言葉をかけていた。
部活がオフらしい茜くんもなんだかんだで気になっていたらしく、表情こそ変わらないが安堵が浮かんでいる。

「迷惑かけちゃったし、久しぶりにみんなでどっか行く?バイト代入ったし奢るよ」

「あー…ごめん、俺今日だめだわ」

涼太にしては歯切れの悪い返しだ。しきりに携帯を気にしては、苦笑を浮かべている。着信を知らせる音が響いたと同時に、急いで教室をあとにした。その様子に違和感を覚えたが、真美に話しかけられ後ろ姿を見送り視線を外す。

「真咲と茜くんは?」

「せっかく仲直りしたんだから二人でデートしてきなよ」

「先輩、今までのへたれ振り見返すチャンスっすよ」

「…もうへたれって言うな!」

意地悪な笑顔で茜くんが言うと、真っ赤な顔で真美の手をとった。負けないくらいに真美も頬を赤く染めたが、その表情は嬉しそうだ。

「先輩らいると暑いっすよー。帰ってイチャイチャして下さい」

いつもならば反論の一言も返すだろう茜くんの言葉に、なんだか幸せそうな笑顔を浮かべ挨拶もそこそこに二人は教室を出ていった。勿論その手は繋がれたままである。

「あたし達も帰ろっか」

鞄を持つと、横から伸びてきた手に腕をとられた。見上げるとここ最近は見ることのなかった切ないような、苦しいような、歪んだ表情で。
心なしか、自分の顔まで歪んでいるような気がした。心臓を掴まれたように胸がきゅっと苦しくなる。

茜くん、彼を呼んだこの声は震えていないだろうか。しばらく視線を泳がせていた茜くんがようやくあたしの目をとらえた。

「すいませんでした」

小さく聞こえた謝罪の言葉。しかしあたしは彼に謝られるようなことをされた覚えはなく、頭に疑問符が浮かぶ。

「今日、真咲先輩の所に俺のクラスの女子が、喧嘩売りに行ったって、聞いたんで」

「あぁ、あの子、」

「適当にあしらってれば大丈夫だと思ってたのに、まさか先輩の所まで行くと思わなくて。俺のせいで嫌な思いしましたよね」

だからごめんなさい、そうハの字に眉を下げて謝る茜くんはまるで怒られた子供のようだ。
茜くんは何も悪くない。悪いのは中途半端なあたし。なのに彼はどうしてこんなにも優しいのだろう。

「大丈夫だよ。茜くんが謝ることない。だから、そんな顔しないで?ね、帰ろ」

「あ、の…」

今度は、あたしが茜くんの手をとった。珍しく焦る彼にクスクスと笑ってみせる。随分と久しぶりに感じた手の温もりは、相変わらず冷たい。
繋いだままの手は、彼を取り巻く子達への牽制の意味を込めたことを気付いているだろうか。