真美と二人きりの昼食は、もう随分と久しぶりのことだった。茜くんが加わってからは、二人での学校生活はクラスで何かする時くらいになっていたかもしれない。
今日だって真っ直ぐあたしを迎えにきた茜くんに真美が頼み込んで二人にしてもらったくらいだ。それは非常に珍しいことで、茜くんも驚きつつ了承していた。何か良くない予感がする、と耳打ちした茜くんの言葉は現実のものとなりそうだ。少なくとも穏やかな時間は望めないことを真美の表情が物語っている。
「喧嘩したの」
それはそれは、綺麗な顔が台無しになるくらい恐ろしい表情で言った。
眉間に皺を寄せたまま口にサンドイッチを放り込む。その一連の流れを眺め、あたしは驚きに目を見開いた。
二人の喧嘩は日常茶飯事であるのだが、毎回蓮が折れるために長引いたことなど一度もないのだ。何で、そう訊けば実に可愛らしい理由が耳に飛び込んできた。
「あのへたれ未だに手すら繋がないんだよ?信じられる?」
一瞬固まるも、拍子抜けしてしまった。こちらからすれば微笑ましい悩みなのだが、本人達にとっては大きな問題なのだろう。口元が弛みそうになるのを堪えつつ相槌をうつ。
「いつもオロオロしちゃってさー。本当ひたすらへたれ」
「まぁ想像は出来るけど」
「情けないよねー」
よくよく見てみれば拗ねたような表情をしていて。あたし達はあまり恋愛の話をしなければ、そういった類の相談もほとんどしない。真美のこんな姿は新鮮だ。
俯いて口を尖らせる彼女は可愛らしい。否、可愛くないと思った日はないのだが。
「…そんなとこも好きなんでしょ」
「ん。好き。すごく好き」
だから、むかつくの。
語尾はどんどん小さくなっていくけれど、それでも素直に好きだと言える真美が可愛くて堪えきれず声を出して笑った。
照れてしまったのか、茶色い髪の隙間から覗いた耳が赤くなっていた。何でこんなに好きなんだろう、大きな瞳を伏せながらぽつりと呟いたその姿が先程の見知らぬ女子生徒に重なった。
「それ、ちゃんと本人に言わなきゃ」
「…頑張るよ」
「大丈夫だよ。蓮も真美のこと大好きなんだから。すぐ仲直り出来るよ」
いつもされているように頭にぽん、と手を置いてみると、ふにゃりという表現が合うであろう笑顔でお礼を言われた。
恐らく放課後までにはいつも通りに戻っているだろうと、ほっと息を吐く。
それと同時に頭の隅で少しだけ、重なってしまったあの子と真美がちらついた。何故、なんて面倒なことは考えなかったけれど、どちらも迷いなく好きだと言えることに羨ましいと思ってしまったのは、きっと気のせいではない。
今日だって真っ直ぐあたしを迎えにきた茜くんに真美が頼み込んで二人にしてもらったくらいだ。それは非常に珍しいことで、茜くんも驚きつつ了承していた。何か良くない予感がする、と耳打ちした茜くんの言葉は現実のものとなりそうだ。少なくとも穏やかな時間は望めないことを真美の表情が物語っている。
「喧嘩したの」
それはそれは、綺麗な顔が台無しになるくらい恐ろしい表情で言った。
眉間に皺を寄せたまま口にサンドイッチを放り込む。その一連の流れを眺め、あたしは驚きに目を見開いた。
二人の喧嘩は日常茶飯事であるのだが、毎回蓮が折れるために長引いたことなど一度もないのだ。何で、そう訊けば実に可愛らしい理由が耳に飛び込んできた。
「あのへたれ未だに手すら繋がないんだよ?信じられる?」
一瞬固まるも、拍子抜けしてしまった。こちらからすれば微笑ましい悩みなのだが、本人達にとっては大きな問題なのだろう。口元が弛みそうになるのを堪えつつ相槌をうつ。
「いつもオロオロしちゃってさー。本当ひたすらへたれ」
「まぁ想像は出来るけど」
「情けないよねー」
よくよく見てみれば拗ねたような表情をしていて。あたし達はあまり恋愛の話をしなければ、そういった類の相談もほとんどしない。真美のこんな姿は新鮮だ。
俯いて口を尖らせる彼女は可愛らしい。否、可愛くないと思った日はないのだが。
「…そんなとこも好きなんでしょ」
「ん。好き。すごく好き」
だから、むかつくの。
語尾はどんどん小さくなっていくけれど、それでも素直に好きだと言える真美が可愛くて堪えきれず声を出して笑った。
照れてしまったのか、茶色い髪の隙間から覗いた耳が赤くなっていた。何でこんなに好きなんだろう、大きな瞳を伏せながらぽつりと呟いたその姿が先程の見知らぬ女子生徒に重なった。
「それ、ちゃんと本人に言わなきゃ」
「…頑張るよ」
「大丈夫だよ。蓮も真美のこと大好きなんだから。すぐ仲直り出来るよ」
いつもされているように頭にぽん、と手を置いてみると、ふにゃりという表現が合うであろう笑顔でお礼を言われた。
恐らく放課後までにはいつも通りに戻っているだろうと、ほっと息を吐く。
それと同時に頭の隅で少しだけ、重なってしまったあの子と真美がちらついた。何故、なんて面倒なことは考えなかったけれど、どちらも迷いなく好きだと言えることに羨ましいと思ってしまったのは、きっと気のせいではない。
