永遠を繋いで

「先輩って矢田の何なんですか」

あたしを睨み付けるように目の前に立ちはだかる一人の女の子がそう怒鳴った。がやがやと騒がしい廊下のど真ん中でのこと、である。
彼女が声を張り上げたせいで野次馬が次々に増えていく。はぁ、と小さく溜め息を吐くと、聞いてますか、とまた大声を上げた。
非常に困った状況である。

「涼太先輩と付き合ってるんだと思ってましたけど、矢田にもちょっかい出して楽しいですか!?」

「はぁ?」

我ながら随分間の抜けた声を出してしまった。どうやら彼女は勘違いをしているようだ。
あたしが涼太と付き合っている事実もなければ、彼女の言うように二股をかけているようなこともない。何故か、と言われれば、

「あたし、どっちとも付き合ってないよ」

「じゃあ矢田の気持ち知ってて弄んでるんですか?」

「そんなことしてない。茜くんのことは大事だから」

嘘は、言っていない。
茜くんがあたしに何かしらの好意を持っていることも分かっている。それは恋愛感情なのかは、あたしの中で定かではないだけだ。未だにあの日から手を繋いだり抱き締めたり、そういったスキンシップもなければ好きと言われたこともない。あたしもまた言ったことはない。だから以前言っていた好きな子が自分なのだと、確信を持てないのだ。

「好き、なんですか」

「…そうだったら何か問題あるの?」

「どうして本人に言わないんですか!そんな近い距離にいて、でも付き合ってないって…そんなの矢田で遊んでるようにしか見えない。あたしは真面目に矢田が好きなのに!先輩はいい人だってみんな言ってるし、先輩が彼女ならまだ諦めたけど、そんな中途半端な関係なのに、あたし矢田を諦められない…!」

今にも涙が零れ落ちそうな瞳を、あたしは直視することができなかった。
彼女の純粋すぎる想いが、あたしの胸を締め付けるように痛みを与える。彼女の言っていることは分からないでもない。感情をストレートにぶつける彼女からすれば、あたしはすごくずるいのだろう。
一番近くて、傷付かないこの距離。あたしが自ら望んで保ち続けているこの位置を彼女は妬んでいる。しかし、この位置をどく気は毛頭ない。
彼女はあたしを買いかぶりすぎだ。あたしは『いい人』なんかではない。嫌われるのを恐れて、傷付くのを恐れて人にいい顔をしているだけの、ずるい女。

「ごめんね」

あの子の隣りは、あたしのだよ。ずるくてごめんね、そんな意味を込めて。