朝礼が終わると、亜紀は来週に予定しているプレゼンに向けてのプレゼンボートのチェックに取り掛かった。
平面図や断面図と並べて、細部を3D化したCGを作成し添えてある。
そのほとんどは、亜紀が手がけた。
依頼主との打ち合わせの際、インテリアなどの好みも、十分にリサーチしておいた。

こんな壁で。
こんなカーテンで。
こんな床で。
こんな照明で。

施主たちの頭の中には、これからできる素敵な我が家がぎっしりと、漠然としたイメージで詰まっている。
それをどう表現して、彼らに楽しい気持ちになってもらうか。
それを考えるだけで、亜紀はこの仕事が楽しくなった。

昔ながらの平屋の大きな家を、息子の結婚を機に2世帯住宅にするのだと、施主から聞かされた。
障子や襖を外せば、畳にして100畳越える広さになる座敷ができあがる家だった。
私のときは、ここで結婚式挙げたんですよと、施主の妻は懐かしそうに話していた。
その屋敷を総2階の2世帯住宅にしたいらしい。
打ち合わせを繰り返し、要望を聞き取り、亜紀はそれを図面に引き起こした。

当然ながら、彼らは同業他社にも見積もりは依頼している。
どこも必死に取りに来るだろう。


まあ。
町田さんと一緒だしね。
負けないでしょ。


そんなことを考えて、既にショボショボと疲れ始めている目に目薬を差し、瞬きを繰り返しながら亜紀は何気に時計を見た。