亜紀の悲鳴と、大きな物音に、町田はイスをひっくり返して駆けだしていた。

階段の踊り場で身を丸め、呻いている亜紀を見て、息が止まりそうだった。

肝が冷えた。
まさに、そんな感じだった。

腕を回した腰の細さを、町田は思い出した。
負けず嫌いな性格そのままの真っ直ぐな眼差しと、真っ直ぐな言葉。
亜紀はいつでも強く逞しい女だった。町田に勝利をもたらす、無敵の女神だった。

でも、腕を回して引き寄せた亜紀は。
体を預けて不安と恐怖に震えていた亜紀は。
細くて小さな女の子だった。
初めて、町田はそれを知った。
そんな気がした。


1人で心細くなってないかな。
あいつは、辛いもきついも、みんな飲み込んじまうからな。


そんな心配が、むくりと町田の胸中に顔をもたげてきた。


例え、三方を敵に囲まれても、亜紀が背後にいてくれれば、それだけで町田には十分だった。
勝てる。
いつでも、そう確信できた。
信じていますと、亜紀は町田に言った。
初めて聞いた言葉だけれど、町田は知っていた。
眼差しが、いつも、町田にそう言っていた。

それが、町田が前に進める力だった。