アイ・ラブ・おデブ【完結】

何度も訪れた懐かしい建物の前でタクシーを降りた

最後にここに来たのは、二人で旅行に発つ日の朝だ

それから季節は巡り、春が終わりを告げようとしている

汗ばむくらいの強い日射しが注ぐ日も珍しくない季節になってしまった

ここで手を繋いで…時には自転車で…また時にはタクシーから一緒に降り立つこともあった

いつも隣には…

自分の覚えている風景が変わらずに、そこに存在していた

アパートの古い階段下に停めてある、オレンジ色の自転車が遥の目に飛び込んできた

…さあや…これに初めて乗った時のこと…今でも覚えてるよ
素敵な色だと言ってくれたね
君と見た幼い日の…夕焼け色
僕も大好きなんだ

思わず自転車の側に行き、愛でるように触れながら持ち主のことを想った

多少の泥汚れはあるものの、きちんと整備がされており、とても大切に乗っていることが窺える

目を細めて愛しそうに撫でていると頭上で階段を降りてくる足音が聞こえた

…やばっ!
さあやなら見つかってしまう

慌ててその場から離れ、物陰へと身を隠した