「オマエ…」

血の気が無くなるほどに強く拳を握り、肩を震わせていた

「雅晴君…これ以上言っても無駄なようだ」

後ろで見守っていた熊野が、マサの震える肩にそっと手を置き静かに言った

「遥さん、あなたは…バカだ
後で後悔しても遅いですよ
店は新しく始められたとしても…
失ったものは…人の気持ちは…取り戻せない
傷付けた代償は…時間が経ってしまえば、もう二度とは埋められない
その腑抜けた面を見せるような事があれば、今度は俺が…ボコボコにします」

そう言い残し、マサの肩を抱きながら大きな男は歩き出した

熊野が何を言いたいのかは直ぐに理解した
マサだってここまで来たのは店のことだけではないのだろう

「元気なのか?…小夜は…」

気付けば、思わず二人の背中にそう聞いていた

「それには答えない…
オレらがわざわざ、ここまで来たんだ…
どうしてなのかは…考えれば分かるだろう?」

振り返りもせずに、マサはそんな言葉を残して遠ざかっていった

…なんだ?何かあったのか?
さあやに…何かあったとでもいうのか?