「遥!!オマエ…
どうしてこんなとこにいるんだ!
オマエのいるべき場所はここじゃないだろ
のんびり自転車なんか乗ってる場合か?」

マサの怒りは最もだが、店に戻るつもりは全くない

…のんびりとは走ってないな…
ひたすら…限界を求めて、体を酷使するように乗っている
もう…自分の帰る場所も、いるべき場所も、愛する人さえ…
全てを失ったんだ
ただ…皆にかけた迷惑は謝らなければいけないとは思っているが…
どの面を提げて会えば良いのか分からないんだ
マサがこうして会いに来てくれたのなら…

「すまん…迷惑をかけたな…」

胸ぐらを掴む怒り心頭のマサに、頭だけを下げ謝った

「くそっ!どうしてオマエは…
まだ目が覚めてないのか?
あの女に骨抜きにされちまったのか?」

掴んでいた服を突き飛ばすように乱暴に離し、ベンチの脚を蹴飛ばした

「マサ…僕は元の自分に戻っているよ
店はもう、マサと香織さんの物だ
こんな所まで会いに来てくれて…
こんな僕を叱ってくれて…
君の友人で僕は幸せだな
ありがとう…雅晴」

ベンチの背もたれに打ち付けた背中が痛むがそんなことは忘れ、マサに深々と頭を下げた

直ぐ目の前に立つマサがぶらりと下げた手をきつく握っているのが目に入る

…また…殴られるか?
まあ…いい…何度でも殴ってくれ…
いっそ、めちゃくちゃにしてもらいたい…