「いや…そうじゃない…
僕は迷ったわけじゃない
この道しかないんだ」

今なら、駅の階段で環を突き落としたマリーの気持ちが分かる気がする

もちろん他人を傷つけるような真似はしないが…

愛する人の為ならなんだってできる

自分を犠牲にするくらいなんでもない
むしろそうありたいくらいだ

それから一晩中マサにしつこく絡まれたが、環の脅迫だけは話さなかった

納得いかない様子で"店に顔を出せ"と言い残して、昼に帰っていった

シャワーを浴び、ベッドに入ると時差ぼけと睡眠不足で次の日の朝まで眠ってしまった

まだ窓の外は薄暗い冬の夜明けだ
温もりが恋しい季節に一人ベッドから出る

…寒っ!昨日毛布を出さずに寝たからか…
ちゃんと暖かくしているだろうか…
風邪などひいていないだろうか…

これからはこうして遠くから、心配をする事しかできなくなった

一緒に笑ったり、涙を拭ったり、抱きしめたりするのは許されないんだ

振りきれぬ思いを抱え、久しぶりに愛車を引っ張り出す

流れる景色の中でペダルを漕ぐ足に力を込める

この気持ちまでもが流れてしまえばいいのに…