「いや…急いでいるから…」

絡めた腕をほどき、無表情で言葉にした
環がほんの僅かに驚いている間に改札をくぐり電車へ飛び乗った

暗闇しか見えない車窓を眺め、今、会った女の事を考えた

…なんで声をかけてきた…
あの修羅場を見ていた事を分かっていただろ?
ああいうのは関わらない方がいい…
まあ…二度と会わないだろう…
そんなことより…このチーズで何を作るか?
あっ…リゾットにしようか…

この時は街で見かけた、インパクトのある日本人としか思っていなかった

けれども遥と環の運命の歯車は、この時に噛み合いゆっくりと回り始めたのだ

遥の気づかないうちに…