遠くで声がする…
ふわふわとした温もりの外から誰かが呼んでいる…

"…るか…遥!"

その声は次第にはっきりと聞こえ小夜の心にひびを入れる

"待って!"必死に声にしようと試みるが喉から漏れるのは言葉にならない苦しそうな息遣いだけだ

"遥…お願いよ…"

耳元ではっきりと聞こえた
そう…あの声は…
真っ赤な薔薇の花弁が辺りに舞い小夜の視界を遮ってしまう

"行かないで!ハル…"

思いきり叫びたいのに声にならない
手を伸ばしても二度と愛しい人の手には届かない
絶望の縁に立ち自分の手を胸の前で握りしめる
ハルの教えてくれたおまじないも効き目がないらしい

小夜は心のヒビから入り込む暗闇に飲み込まれようとしていた

"嫌…助けて!"