紅梅サドン

「いやあ、こんな美しい方とお会いできるなんて僕の方が恐縮です。」


「いえ、そんな事ないんですケド――。」

そう言ってはにかむ彼女の傍らには、腰程まである大きなスーツケースが並んでいた。

結婚相談所で紹介された相手に初めて会う日に、何でこんなデカイ荷物持ってんだ?

初対面である僕と彼女の微妙な距離を、数人の人々が知らずに通り抜ける。

「銀座の真ん中で立ち話も何ですから、どこかでお茶でもしませんか?

あ、お茶するなんて、今どき古いですよね。

ところで随分と大きなカバンをお持ちですね。

御旅行の帰りとか――、じゃないですもんね。

いや、お持ちしますよ。」

春独特の午後の温度に僕はどこまでも気持ちが良くなって、何だかとても幸せな気持ちになれた。