紅梅サドン

気体が人間に変化した様な軽々しいあのルノーに、そんな背景があったとは知らなかった。

両親に先立たれた兄弟二人の絆が少し僕の胸にキリキリと響いた。

「実は僕、二か月後にロンドンに行かなければならないんです。

里親の御二人は大変お優しい御夫婦で、5歳の頃から僕を本当の息子の様に育ててくれました。

その外資に勤める父の転勤が最近決まりまして。

おそらく五年から、長いと悠に十年はロンドンで生活しなければならなくなりました。

兄にもその事を話しました。

兄はその時は何も言わず、『頑張って行って来い』と明るく僕に話していたのですがーー。」

言葉を緩やかに止めて再び次郎は下を向いた。

それを横で見ていた雪子が、涙を拭いていたハンカチを置いて次郎の代わりに話し出した。