紅梅サドン

部屋には誰の姿も無い。

その時、玄関脇の古くて建て付けが悪いトイレのドアがゴゴゴオと音を立て、モーゼが呪文をかけた様に大きく開いた。



「田辺さん、非礼を働き申し訳ありません。

僕は海島 次郎と申します。小学校三年生、現在8歳です。

いきなりお邪魔してさぞ驚きになった事と思います。

御無礼を承知で、そこにおられる桂川さんに事情を聞いて頂きまして、こうして田辺さんのお部屋の中へ図々しくも、上がらせて頂いた所存でしてーー。」

政治家みたいな固い挨拶が津波の如く次々と僕に襲いかかった。

利発そうな顔立ちの、春のつくしに似たひょろりとしている少年が立っている。

良いタンパク質を取り続けて成長したと推測されるツルンとした良質な肌が、育ちの良さを証明している。

「不躾な質問で恐縮ですが。

僕の『兄』であります、桜田ルノーがここにお邪魔しませんでしたでしょうか?。」