紅梅サドン

僕は断らなかった。

何故だろう。
正直、雪子に恋愛感情が湧いた訳では無かった。

もうすでに雪子は隣の六畳間で寝息を立てている。

僕は自分の布団に寝転んだまま、暗い闇が広がる窓越しの空を眺めた。

雨上がりのせいか、星が久しぶりにくっきりとした輪郭で姿を見せている。


『私、下手なんだと思うんです。

人に想いを伝えたりするのが。

その人を好きになった自分が本当に幸せで。

それだけで何も見えなくなってしまうから』

さっきポツリとつぶやいた雪子の一言を思い出す。

雪子が福島の家を飛び出して来た理由と何か関係があるのだろうか。

それは再び僕の心に小さな棘になって残っていた。