紅梅サドン

『さよなら、秋』

『ーーー』

『こんな時も何も言わないんだね、秋は』

真澄は僕にポツリと言う。

『秋と2年暮らした部屋。私はここにはもう戻らない』

『ーー真澄、ーー外、凄い雨だぞ』

『だから?』

『いや、ーーだからーー、これーー、風邪引いたら大変だろ?』

そう言って僕は緑色の傘を真澄に渡す。

真澄の最後の言葉。

彼女の事が言葉に出来ない程に大切で仕方が無いのに、同棲していた部屋から出て行く彼女が残した僕への『最後』の言葉ーー。


真澄は緑色の傘を手渡した僕に、まるで羽毛みたいに柔らかな笑顔を静かに作って言った。