紅梅サドン

襖越しに、雪子の消え入りそうな声が聞こえた。


「ーー行かないでーー、ーーさん。」

寝言だろうか。
何の夢を見ているのだろう。
雪子が呼ぶ名前の部分は聞き取れなかった。

涙を沈めた悲しい音色の声。

その声は必死で何かにすがろうとする少女の様に、また繊細な糸の様に耳の奥深く入り込んで来た。


そして何故かその声は、いつまでも僕の頭の中に反芻して消えずにいた。