紅梅サドン

「『とっておき』が気持ち半笑いなのは?」

ルノーはゴキブリ背中を更に震わせる。

「お前みたいにツラの優秀なヤカラには俺の気持ちなんてわかんねえんだよ!

だいたいお前だって俺だって、母親の腹ん中泳いでた精子の時は、ツラなんかさして変わらなかったろうが!

とっとと帰れよ!!。」

僕はもう自分の言ってる事さえよく理解できなかった。

真澄が一年前に出て行ってしまってから、ずっと僕は一人でこの部屋にいたんだ。

今、その部屋に昨日今日まで赤の他人だった二人の人間が平然と息をしている。

嬉しい時も辛い時も全部、この部屋で心を暖めたり、慰めたり、怒ったりして自分だけで『田辺秋』という人間を生産して来ていた。