紅梅サドン

僕は助手席で小さくなってしまい、何も言えなかった。

矢萩の吐き出した煙草の煙が、わかりやすい嘘をついた僕を永遠のループみたいに囲んでいく。

矢萩は『まあ、その話は今度ゆっくりな』と言い、そのまま社に戻った。

打ち上げは社の近くの懇意にしている居酒屋で行われた。

みんな泣いている。打ち上げの乾杯からずっと、社長は特に泣き腫らしている。

僕の鼓膜の奥へ、社長の嗚咽がまるで遠く響き渡るサイレンに聞こえてくる。

「田辺君、君ならやってくれると信じていたよ。」

社長は鼻から勝てる訳無いと、明らかに諦めていたくせに。

『嘘つくな。殺すぞ』

矢萩がさっき僕に言った言葉を、社長に向かって心の中で小さく唱えた。