紅梅サドン

「具合でも悪いのか?打ち上げ行くんだろ、もちろん。」

信号待ちの間、僕にそう話しかけながらも、矢萩は横断歩道を歩く女性を眺めている。

『う~んこのOL、体は幼児体型だが顔がエロくて非常に良い。逸材だ』と独りで感心していた。

「ああ、行くよ。」

僕の精気無い声が車内に響く。

開けた窓の外に春風が通り抜ける。

五月独特のどこか果実を思わせる甘い匂いがした。

僕は昨日雪子と出会った出来事が何故か遠い昔の気がした。

現実味を帯びていない。帰ったら家財道具一式が無くなっているかもしれない。

もちろん自分の保険証やら通帳やらは、家を出る時に持ってきている。

目的がわからなかった。

本当にマスリカとか云う占い師のお告げを信じてんのだろうか。

「朝、給湯室でコソコソ食ってたおにぎり、美味かったか?。」