紅梅サドン

雪子が握ったおにぎりのお陰でーーとは信じたくないが、その日のプレゼンは大成功に終わった。

ウチみたいに細々とやっている小さな広告代理店が、今回のプレゼンで勝てるとは社の連中も微塵も思っておらず、プレゼンに派遣されたのも僕と同期の矢萩だけだった。

よって帰り道は社に連絡を入れると、それはそれは大騒ぎであった。

「即決したのはさ、先方の社長がウチの打ち出した細密で的確なコンセプトに惚れたらしいよ。

今までにない新鮮味を感じたってさ。」

矢萩が煙草を吸いながら車の窓を開ける。

「俺ら入社して八年だけど、こんなデカいプレゼンに勝ったの初めてじゃない、秋?。」

矢萩は社に連絡したら社長が号泣してたぞと付け加えて、運転席から僕に言った。