紅梅サドン

雪子の笑顔はもう『逃がさない』という決意の現れなのだろうか。

「秋さん、私はあなたの空気になります。

でもちょっとは役に立つ空気になりますから。

心配ないですケド。
それに――。

秋さんの部屋に入っても、決して、断じて――。」


雪子は恥ずかしいそうにしながらも、何故か語尾を強めた。

「秋さんの寝込みを襲ったりしませんケド。

何もしませんから、ご安心下さい。」

男が言う全力100%の嘘台詞を、女性が真剣な眼差しで言い切るのは初めて見る。


雪子が発したその意味不明な潔さは、何故かヒーローの眼差しに似ていた。