紅梅サドン

僕は雪子に必要以上に笑顔を見せた。


「煙草、切らしたので買ってきます。」

僕は颯爽と立ち上がる。しかし、雪子は僕以上の笑顔を作り言った。

「秋さんがお吸いの煙草はマルボロですよね。

そして金マルですね。赤マルではありませんね。

さっきこの喫茶店に入る前に販売機で買いました。

秋さんの胸ポケットに入ってるのが見えましたから。

もし煙草が切れたら、お使い頂こうと思って。

お役に立てたらと思って買っといたんですケド。」

何とも気が利くんだろう。いよいよ気持ちが悪くなってくる。

「金マルなんて呼び名、よくご存知ですね――。」

全身の脱力感にさいなまれた僕の言葉は、店にかかるクラシックよりゆっくりと静かに流れる。

雪子が盗み見た胸ポケットのマルボロを、僕は諦めた速度で取り出すしかなかった。