紅梅サドン

電話口での菊池院長の最初の言葉。

『海島次郎の施設の者です』

遠縁の親戚の所へ次郎がロンドンに立つまで厄介になる、と嘘を言って施設から出てきたのは『ルノー』なはずだ。

『桜田ルノーの施設の者です』が正しいはずだ。

確かに次郎も、両親が事故で亡くなった2歳から、里親に引き取られる5歳までの三年間はその施設にいた訳だがーー。

どう考えてもこの場合、すでに里親に引き取られている『次郎』の名前を初めに出すのはおかしい。


『ルノー?ルノーもお邪魔してたのですか?同じ世田谷区ですものね』

院長は確かにそう言っていた。


ここで僕はある確信めいた結論にたどり着いた。


里親に引き取られているのは次郎ではない。

ーー“ルノー”の方だ。

そして現在、施設で暮らしているのは“次郎”の方だ。