自分が大事

30分以上経っても、タケルは帰って来なかった。
泣いてるうちに帰って来て、
また優しくしてもらえるんじゃないかなんて淡い期待は消えて、
いきなり弱って結婚を迫った私に引いて
もう二度と帰って来ないんじゃないかと思っていた。

湯飲みを片付けて、また目を冷やす。

昨日加奈と何を話したか思い出そうとしていた。


「加奈・・・それって本気で言ってるの?」

「うん。なんで?」

「あ、はは、そう。・・・へぇ。」

「もー、何よ。別に簡単に産んで殺すなんて言ってないでしょぉ?」
加奈はふてくされたように言ってお酒を飲み始めた。

頼んであった料理が運ばれて、パクパクと食べながら、
いつも通りの、職場の愚痴とかを聞かされた気がする。

私は味もわからないし、飲み込むたびにゴクッと嫌な音がするから、
すっかり食欲をなくして相槌を打っていた。

あまりに普通だったから、何を話したのか覚えてないけど。
帰り際に加奈が何か言っていた。

なんだったっけ

なんだった?

ガチャッ

ドアが開いて、タケルが帰って来た。
1時間以上経っていた。

「あ・・・おかえり」
ぼんやりと見ていると緊張した様子で近づいて来て

ポケットから箱を出した。

目の前でパカッと

よくドラマとかで見るあの感じで・・・

「俺は、るりの家族に会って、あんな家族が欲しいと思った。
だから俺は、るりと家族になりたいって思う。」

状況が飲み込めず、口を開けたままタケルを見ていると

「扶養とか、子供とか、今は考えなくていいんだ。
だから、俺と結婚して下さい。」

おお・・・
あ、おおお

受け取る側の気持ちが違うだけでこんなに変わるものなんだ。
あの日腹を立てた扶養の響きも、今はそれもありかと思う位。

「はい。結婚・・・します。」

加奈がくれたきっかけ。
加奈は何を話していたか、そんな事はもうどうでもよくなっていた。