「部長。どうぞ」
マキが笑顔で差し出したコーヒーを受け取り、高橋の横へ座った。
「高橋くんも、どうぞ」
変わらない笑顔でマキは高橋にもコーヒーを差し出した。高橋はありがとうございますと慇懃に述べ、両手でそれを受け取った。
コーヒーを口元へ運ぶと眼鏡が白く曇った。それが煩わしかったから、眼鏡を机に置き、縛った髪も解いた。
高橋はしょぼくれた顔でコーヒーを啜っている。それを見た私はやはり放っておくのはかわいそうだなんていうお人よしを発動させていた。
「もうさすがにコピーはできるようになったでしょ」
「…たぶん」
「コピーより簡単な仕事なんて言ったらトイレ掃除とかになるんだけど」
高橋は肩を落とし、ため息をつく。このダメ後輩は一日に何度ため息をつくのだろう。
「高橋、あんた面接で長所は何だって言ってたっけ」
時々思う。私は何でこんなことしてるんだろうか。
「…いつも、笑顔でいられるところ、です」
こんなダメな後輩のフォローして、励まして。私に何の利益があるのか。
「じゃあ笑顔でいなよ。辛気臭い顔してたら良いこと起こんないよ」
