「ねぇ、高橋」
昨晩冷静さを欠いていた私は自分がとんでもない要求を受け入れたことにいまさらになって気づいた。
「やっぱり…!」
うちに住むのは止めて。
はっきりそう言うつもりだった。
いつもの鬼部長の威厳をもって。
だが出かかった言葉は口から出る直前に止まった。
高橋が私を見ている。じっと不安げな顔で。純真無垢な瞳で。
じっと………。
◇
「部長はほんとに何を考えてるんですかぁ!?」
マキがビールジョッキを机にたたき付けた。激しい音に店内で飲んでいたおじさんがちらちらと私たちをうかがっている。
「何が可愛い顔して見つめてくるから断れなかったですか!部長わかってるんですか?あいつは一回部長に手出してるんですよ?」
酔ったマキに制御など無意味かつ無駄だ。
「絶対あいつ部長のこと狙ってますよ!くそ!あんなおとなしい顔しといて!男なんて所詮セックスしか頭にないんですよ!」
気まずそうな顔をして飲むおじさんたちには心の中で詫びをいれた。
