境界線


当たり前だ。

目の前に座っているのは人事部部長だ。

女が惚れる、あの細い切れ長の目もこの状況じゃ恐ろしいとしか思えない。

「高橋。事情話してくれる?」

私が言うと、高橋はゆっくり口を開き、ここまでの経緯を語り出した。

「…さっき、あの男が言ってた借金の話は本当です。でも俺のものじゃなくて姉のものなんです。俺が保証人になってたから、支払う役目が俺になってしまって」

「お姉さんどうしたの?」

「消えたんです。男と。俺には海外旅行に行くからって言って出て行ったんです。でもなかなか帰ってこなくて」

リョウスケが複雑そうな表情で私と高橋の顔を交互に見る。

「俺、親に何度も相談しようか迷ったんですけど…大事になりそうだったんで、俺が何とかしなきゃと…」

しばらく無言が続いた。俯く高橋の目にはうっすら涙が浮かんでいる。丸くなった高橋の背中をさするとリョウスケが嫌そうに私を見た。