境界線


「高橋。大丈夫?」
「部長…本当にすみません!」

高橋が私の足元で土下座をする。毎日毎日、私は何故こんなに高橋に謝られているのだろう。

しゃがみ込んで高橋の顔を見ると右頬に薄くあざが出来ていた。おそらくあの男に殴られたのだろう。

「リョウスケ。あんたの家、連れてって」
「はぁ?馬鹿言うなよ。男は家にいれない主義なんだけど」
「私も行くから問題無いでしょ」

今高橋の家に戻れば、あの取り立てのヤクザがまた現れるかもしれない。

リョウスケの家は会社から徒歩十分ほどの距離にある。どうせ女をお持ち帰りしたいがために選んだ立地なんだろうけど…

「借りひとつな」

ご機嫌に呟いたリョウスケは軽々と高橋の肩をかついだ。どうやら足もくじいてしまったらしい。

…情けないやつ。

だがここで高橋を叱れば確実にリョウスケが調子に乗るはずだ。

とりあえず高橋に事情を聞かなければならない。話はそれからだ。