仕事に戻ろうとパソコンに向き直った私のもとへマキがコーヒーを持ってやってくる。ピンヒールの底が鳴らす高い音が私のすぐそばへ迫る。
「部長。好きになったとかじゃありませんよね」
疑問ではない。確認といった感じ。
「男に頼らないんじゃなかったんですか」
「別に好きじゃないけど」
そう。好きじゃない。
好きになれそうもない。
「豊田リョウスケって知ってる?」
「知ってますよ、もちろん」
「あれ元カレ。私のタイプあんなんよ」
マキは私の発言に声もださずに驚く。当たり前だ。リョウスケは彼自身プレイボーイだし、社交的だから女性社員に人気がある。知らない人はいないだろう。
「豊田部長と…部長が」
うそだ、と呟きながらマキは首を横に振った。私は少し罪悪感を感じながら私はコーヒーを飲む。
「黒歴史だから内緒ね。詳細が知りたかったらまた飲みに連れてったげるけど」
「連れてってください」
そう即答したマキは足早に私から遠ざかる。軽蔑されたかもしれない、という微妙な不安を胸に抱きながら、私は仕事に戻った。
