境界線


気づけばリョウスケの腕は私の腰に回っていた。払いのけたいところだが、必要はない。

エレベーターが三階に到着し、私は自然な身のこなしでリョウスケから離れた。

「やっぱいい女だな。お前は」

そっちから手放したくせに。
何を後悔しているというのか。

「また連絡するよ」

扉が閉まる直前に、リョウスケが怪しく微笑んだ。
あの男ほど、私の境界線を軽く越えようとするやつはいない。



「部長。来週の予定表、コピーしてきました」
「あら。高橋がやったの?」

嬉しそうに首を振る後輩が差し出したコピーは何の不備もない完璧なものだった。

「練習の成果です」
「インク代は無駄にならなかったみたいね」

照れ笑いのような笑みを浮かべて、高橋は席に戻っていった。

私と昨晩一緒に過ごしたのは本当にあの高橋なんだろうか。今さらになってそんな疑問が生まれてくる。

本当にあんな弱々しい男と私はセックスしたのだろうか。